

22時半すぎたら禁酒?
ぬるくておいしい?
アジアのビール事情
アジア諸国の多くは、欧米列強によって植民統治されていた時代があります。そのため統治国によって、ビールの基本の味作りがアジア各国でも異なるものとなりました。また、熱帯・亜熱帯の気候のためビールに求める味はアジア独自なものとなり、冷蔵庫の普及の遅れから氷を入れる飲みものとしても味の設計に違いが生まれました。そんなアジア各国のビール事情とそこで生まれたビールを見てみましょう。日本ともまた違う、奥深いビール文化がその国の数だけありました。
そもそも、世界でビールはどのくらい飲まれているの?

世界で飲まれているお酒の
8割は”ビール”
さまざまな調査や比較がありますが、世界の酒消費量のうちビールは重量にして8割を占めているそうです。アルコール換算にすると約3割。世界のアルコール量の3割ほどはビールとして飲まれている、ということになります。

ビールが好きでよく飲む国は
ドイツじゃない
経済成長と人口増が著しい国(たとえばベトナムやインド)でビール消費量が伸長し、日本やドイツのようなビール大国は人口減と共に少しずつ消費量を減らしている傾向があるようです。
いまビールはどこでどれくらい飲まれているのか?
キリンHDの調査を見てみましょう。
ビールの国別消費量
中国が30年連続1位、日本は10位!
日本は2020年まで14年連続7位でしたが、イギリス・スペイン・ベトナムに抜かれて順位を落としました。
2022年順位 | 国名 | 総消費量(万kl) |
---|---|---|
1 | 中国 | 4,203.5 |
2 | アメリカ | 2,037.8 |
3 | ブラジル | 1,493.2 |
4 | メキシコ | 999.0 |
5 | ロシア | 849.7 |
6 | ドイツ | 782.7 |
7 | ベトナム | 528.0 |
8 | イギリス | 458.7 |
9 | スペイン | 444.1 |
10 | 日本 | 429.4 |
地域別ビール消費量
アジア地域が1位!
アジアのビール消費は15年連続で1位。世界のビールの3分の1はアジア地域で飲まれています。
2022年地域別ビール消費量構成比
33.9%
25.8%
18.8%
ヨーロッパ 25.8%
中南米 18.8%
北米 11.6%
アフリカ 8.0%
オセアニア 1.2%
中東 0.7%
1人あたりの消費量
ヨーロッパ勢がすごい!
チェコは30年連続で1位のビール大好き国民。2位のオーストリア国民の約1.8倍、56位の日本人のなんと約5.5倍もビールを飲みます。
2022年順位 | 国名 | 消費量(L/人) |
---|---|---|
1 | チェコ | 188.5 |
2 | オーストリア | 101.2 |
3 | ポーランド | 99.6 |
4 | アイルランド | 99.3 |
5 | リトアニア | 97.6 |
6 | スペイン | 95.1 |
7 | ドイツ | 93.3 |
8 | エストニア | 93.1 |
9 | ルーマニア | 91.6 |
10 | ナミビア | 90.8 |
56 | 日本 | 34.2 |
出典:キリンホールディングス

ベトナムのビール事情
もともと庶民の酒としてビールが広く飲まれていましたが、経済成長とともに消費量を伸ばし、2022年の国別ビール消費量はアジア圏で日本を抜き第2位になりました(アジア1位中国/2位ベトナム/3位日本)。暑いベトナムでは軽い飲み口が好まれ、泡立ちの少ないライトなビールが人気です。アジア圏あるあるですが、常温のビールを氷の入ったグラスに注いで飲むのも一般的。氷が解けてさらに飲みやすくなったビールを水のようにすいすい飲むのがベトナム流のようです。

333(バーバーバー) 330ml
フランスで作られていた「33」というビールが、フランス統治下のベトナムで製造され、ベトナム独立時に「333」に改名されたビール。ロゴ下の3つのマークはベトナムの星・ドイツの鷲・フランスの百合。その下には「ドイツの最上ホップ・フランスの伝統製法・ベトナム独自のタッチ」の3つが融合して完成したビールであることが書かれ、上部にも3か国語でビール(Bier・Bia・Biere)と書かれています。
ベトナムでは3はあまり縁起のいい数字ではないそうですが、3+3+3=9になると幸運の数字になるので「災い転じて福となす幸運のビール」といった縁起担ぎで人気のビールです。味わいはライトですっきり。グラスに注ぐと泡立ちもよく、ほんのりとフルーティーな香りが立ち上ります。

サイゴン スペシャル 330ml
原料にこだわったプレミアム志向のビールで、日本のビールに近い、麦芽感のしっかりした風味を持ちます。こだわりは、軽やかな苦みとシャープな後味を残すアメリカ・ヤキマバレー産のホップ。そのホップを発酵後に加えるドライホッピング製法で生まれるフレッシュな香りが、ビール全体の爽やかさを引き上げています。さらに副原料に使用した米が、味わいにフルーティな印象を加えています。きめ細かい泡立ちも美しいピルスナービールです。

インドネシアのビール事情
インドネシアはイスラム教徒が世界一多い国で、いつでもどこでもビールが飲める国ではありません。イスラム教徒の人たちはアルコールを飲みませんし、他教徒や旅行者であってもお酒を飲める場所や時間が限られています。小売店でも他の商品と売り場を分けるなど条件があります。
しかしインドネシアは多民族国家。イスラム教は国教ではなく信教の自由が保障されているため、国として飲酒は禁止されていません。ヒンドゥー教徒が多いバリ島や、キリスト教や先住民族宗教など非イスラム教徒が暮らすインドネシア東部では飲酒人口も多く、ビールの製造もちゃんと認可されています。

ビンタン 330ml
ハイネケン社がオランダ統治下のジャワ島で始めたビール事業が元となり、オランダから独立後も承継されて現在に至ります。「ビンタン」とは「星」という意味で、ラベルには赤い星が大きくデザインされていますが、この赤い星はもともとはハイネケンのマーク。当時「星のビール」の愛称で呼ばれていたインドネシア産ハイネケンが、そのままビンタンビールという名前になったのです。飲酒しないイスラム教徒が多い国でありながら、ジャワ島を中心によく飲まれているビールです。苦みは少なく、後味すっきりでフルーティな香り、クセがなくてとても飲みやすいビールです。

バリハイ 330ml
バリ島では置いていない店はないほど定番のビールです。ハワイやグアム、フィリピンのセブ島でも人気の銘柄で、ビーチリゾートのイメージが付いていてサーファーにも人気のビールになっています。「バリ・ハイ」とは、戦後の大ヒットミュージカル/映画「南太平洋」の舞台となる伝説の楽園の島から取った名前ですが、この作品とバリ島はなにも関係はないのだそうです。
フィリピンの大手ビールメーカー「サンミゲール社」の醸造技術協力を受けながらスタートしたメーカーで、しっかりとしたコクのあるボディ、すっきりとした軽やかな味わい、南国味のある苦みが楽しめます。

タイのビール事情
暑い国のビール文化で、ビールに氷を入れて飲むのが好きな国。冷蔵設備普及前からの習慣と言われますが、現地の気温や湿度、辛い料理と合わせると、冷たく少し薄くなったビールがおいしい気がします。そもそものビールも、すっきりライトな飲み口が主流です。
タイもお酒の販売や飲酒に決まりが多い国。テレビCMは禁止、SNSでの投稿にも制約があります。お酒を小売できる時間は11~14時と17~24時だけ、24時を過ぎたら翌日のランチタイムまでお酒は買えません。仏教の祭日や王族の記念日、選挙の前日当日はお酒を買うことも飲むことも禁止されます。

シンハー 330ml
1933年にタイで最初に製造された国産ビールです。一番搾り麦汁から製造された、しっかりとした飲みごたえとバランスの取れたスパイシーな味わいのプレミアムラガー。飲み口が強いな、と感じた方はアジア流に氷を入れてみてください。暑い国のビールらしくすっきりと飲め、ほのかな甘みや酸味も感じることができます。
シンハーとは獅子神を意味し、古代神話に登場する伝説の獅子(シン)をシンボルにしています。そのため現地ではシンハーではなく「ビア・シン」と呼ぶことのほうが多いようです。ラベル上部の鳥は、タイ王室の紋章「神鳥ガルーダ」。王室お墨付きとして紋章の使用を許された唯一のビールなのです。

チャーン 320ml
デンマークのカールスバーグ社との提携で1990年代に登場した新しいブランドですが、低価格戦略でシンハーに対抗し、いまではシンハーと人気を二分するビールに急成長しました。チャーンとはタイ語で象のこと。タイ仏教において特別に大切な存在である象をトレードマークにしています。
爽快感のある軽い飲み口が好きな方におすすめの飲みやすいビールです。ヨーロッパやアメリカの厳選した大麦やホップを使用。軽めの苦みと柑橘のような香りに加え、副原料の米による甘みとフルーティな香りもあって、タイ国民が大事にする「笑顔や太陽のイメージ」を表現したと言われています。

レオ 330ml
シンハーの低価格ラインとして、チャーンの価格に対抗するために製造されたビールとされています。リーズナブルな価格とライトな口当たりが若者世代の人気を集めた結果、チャーンもシンハーも抜いてトップシェアブランドとなり、いまやタイのビール市場の約半分を占めています。
「シンハーより安く、チャーンよりおいしく」を掲げ、苦みが少なく独特の甘みがある味わいで、あっさりとしたテイストが持ち味。軽いビールが好きな方はごくごく飲めてしまいます。トレードマークはレオパルド(ヒョウ)で、現地では通称ビア・リオと呼ばれています。

シンガポールのビール事情
シンガポールはお酒のルールが厳しい国です。22時30分(休日は20時)~翌7時はお酒を買うことができません。またこの時間は、自宅やホテル、許可を受けたレストランなどの決められた場所以外で飲酒することもできません。
また嗜好品に対する税金が高いことでも知られる国。ビール350mlあたりの酒税が日本が約63円に対し、シンガポールは約115円(1SD=110Yとして)。さらに輸入ビールの場合、関税が16%かかります。そのためレストランやバーで飲むビールは体感価格として日本の2倍くらいの印象です。

タイガー 330ml
オランダ・ハイネケン社との合弁事業として1932年に誕生したブランドです。ヨーロッパの厳選モルトとオーストラリア産のホップを使用し、ハイネケンの醸造技術を基に作られています。アジアのビールは日本人にとって「薄い」と感じることも多い中、タイガーはライトでありながら、キレ・苦み・のどごし・しっかりとしたボディを感じられるビールと言われます。
タイガーのネーミングは、会社設立時の協議がラッフルズホテルで行われた際、かつてそのホテルのバーに一匹の虎が迷いこんできて駆除されたという話題から「虎のビールだったらバーで歓迎されたのに」という発言があったのがきっかけ、だそうです。

フィリピンのビール事情
フィリピンは、お酒の席を通じて親密さを高めることを重視する「飲みニケーション」文化のあるお国柄と言われます。特に、同じグラスでお酒を回し飲みをする「タカイ」という習慣があり、にぎやかに飲んで仲間との絆を深めます。
ビールはキンキンに冷やして提供されることは少なく、あまり冷えていない瓶のままのビールを氷を入れたグラスに注いでは飲むのがフィリピンスタイル。ビールの価格は比較的安く、仲間と楽しくこの飲み方ですいすい飲むのがビールの楽しみ方のようです。
フィリピンで最も愛されているビール「サンミゲル」
サンミゲルはフィリピンのビール市場の約9割を独占するブランド。スペイン統治下の1890年にスペイン人実業家によって東南アジア初のビール醸造所が作られたのが始まりで、現在ではサンミゲルグループは石油・エネルギー事業を擁するフィリピンの大財閥になっています。
ビール事業部門においては日本のキリンホールディングスが出資していて、業務提携によりキリンの技術を活かした製品づくりや、現地のキリンビール製造が行われています。


サンミゲル ピルセン 320ml
サンミゲルブランドの中心となる定番のビール。アジアビールらしい飲みやすさながら、ボディーのしっかりしたリッチな味わいで苦みもしっかり。日本人にとってはビールらしいビールといえます。

サンミゲル ライト 330ml
ピルセンと比べ、軽くてさっぱりとした飲み口が特徴。味わいだけでなくカロリーもライト、1本330mlあたり100kcalという付加価値型商品でもあります。若者や女性の人気を得て、急速にシェアを拡大しています。

レッドホース 330ml
サンミゲルの名を冠していませんが同社が醸造するストロングラガービールで、モルトの旨みと芳醇さが特徴です。アルコール度数8%と高め、割安に酔えるビールとして人気の高いビールです。

サンミゲル ライチ 330ml
オーストラリアとヨーロッパから厳選された麦芽とホップで醸造されたなめらかなラガービールに、ジューシーなライチがオリエンタルな個性を添えます。低アルコールで軽やか、ジュース感覚で飲めてしまうフルーツビールです。

サンミゲル アップル 330ml
オーストラリアとヨーロッパから厳選された麦芽とホップで醸造されたなめらかなラガービールに、青リンゴの甘酸っぱさが好バランス。低アルコールで軽やか、甘いカクテルのように楽しめるフルーツビールです。

中国のビール事情
中国のビール消費量は年間約4,000万キロリットル。なんと世界のビールの4分の1が中国で飲まれています。生産量でも中国は世界一。その市場規模と富裕化や食習慣の西洋化を受け、いま中国では高級ビール市場を狙った競争が過熱していると言います。
中国ではビールを注文すると冷蔵か常温かを聞かれたり、ローカル向けの飲食店だと常温ビールしか置いていないことがあります。この「ぬるいビール」、ほかのアジア諸国の習慣とは少し異なり、「体を冷やす飲み物や料理を避ける考え方」が背景にあると言われます。なので中国のビールは常温で飲んでみるとその本来のポテンシャルを感じられるかもしれません。

青島(チンタオ) 330ml
日本で一番知られた中国を代表するビールです。青島は島ではなく、北京と上海の中間に位置する港湾都市です。ドイツの租借地だった1903年にドイツの醸造技術によって製造が開始されました。
苦みがなくとてもマイルドな口当たり、清々しいホップ香をほんのり感じます。冷やすとこの香りや味は感じにくいのですが、ご当地流に冷やさず常温でゆったり飲むと、優しい青島ビールの本領を感じることができます。

台湾のビール事情
台湾の人はあまりお酒を飲まないと言われます。台湾衛生福利部の2017年の調査では「過去1年お酒を飲んでいない」と答えた人は6割に上ったそうです。理由は明らかではありませんが、遺伝体質的にアルコールに弱い、飲みニケーションの習慣がない、バイク文化のためお酒を飲まない、などが挙げられています。一方で、週1回以上お酒を飲む人は3割程度いるようで、お酒が好きな人は習慣的にちゃんと飲むようです。
台湾では2002年まで酒類は政府専売でしたが、自由化による民間参入が進み、現在はビールが好きな人のためのおいしいクラフトビールが活性化しつつあるようです。

金牌(キンパイ) 330ml
台湾最大のビールメーカー台湾啤酒の主力商品で、独特の香りを持つ台湾の代表的なラガービールです。選び抜かれた大麦麦芽と高品質なホップに、副原料として「蓬莱米」を使用しています。苦味はほとんどなく、フルーティな香りとないスッキリとした後味で、軽やかなおいしさです。
冷たい飲み物を好まない中国文化と亜熱帯の暑い気候から、しっかり冷えていなくてもおいしく感じるビールとして設計されていて、あまりお酒を飲まない台湾人がゆったりと味わうのに適していることが人気の理由のようです。