補助金・助成金で飲食店は開業できる? 飲食店でももらえる補助金・助成金
※この記事では、飲食店開業準備中の方を対象に、飲食店の開業に必要な開業資金の考え方と、開業資金の何割程度の自己資金が必要かを検証していきます。

開業準備を始めて、まず最初に驚くこと。それは、「思ったよりもすっっっごくお金がかかる」ことではないでしょうか?
なぜかチマタでは、0円で開業できるとか、最低300万円あればいい、とか、いやいや1,000万円は最低必要だ。
とか、根拠があるようでない金額が飛び交っていますが、「いくらあれば自分の飲食店を開業できる?開業資金の計算方法と、自己資金の比率」でも検証したように、多くの事例で、自己資金を大きく上回る開業資金が必要になる試算が出ると思います。
と、なると、「いざ、資金調達」となるわけですが・・・
「融資って、つまり借金でしょ・・・?借金は嫌だなぁ」
「自分が開店するのは、いわゆるシャッター商店街。地域の活性化にも貢献するし、補助とかもらえないの?」
「物件を契約するのに家賃1年分もかかるなんて・・・とてもじゃないけど自己資金が足りない。助成金や補助金で少しでもまかなえないか?」
足りないお金を工面する方法として「補助金」や「助成金」が思い浮かぶ方もいらっしゃるのでは?
融資と違って「補助金」も「助成金」も国や地方自治体からマルッともらえるお金です。
もらえるものなら、もらいたいですよね。
そこで、今回は、「補助金」と「助成金」の違いから、補助金・助成金との付き合い方。
飲食店でも受けられる補助金・助成金の具体例まで、わかりやすく解説していきます。
自己資金が足りない。補助金・助成金を元手に飲食店は開業できるのか?

「補助金」「助成金」について学ぶ前に、1つ大前提として知っておいていただきたいことがあります。
補助金・助成金を元手に、飲食店は開業できないということです。
「え?でも、創業支援の補助金とか助成金、あるよね?」
という疑問はごもっともです。
実際に「地域創造的起業補助金(通称:創業補助金)」「若手・女性リーダー応援プログラム助成金」など、スタートアップを支援する補助金や助成金はありますし、飲食店でも要件を満たすことができます。
しかし、問題は補助金・助成金が「いつ支払われるのか?」という点にあります。
仮に、平成30年度の「地域創造的起業補助金(通称:創業補助金) 」のタイムスケジュールを見てみましょう。
平成30年度地域創造的起業補助金【募集要項】(http://www.cs-kigyou.jp/wordpress/wp-content/themes/kigyou/files/boshuyoukou_h30kigyou.pdf)より
応募から補助金の支払いまで、約1年もかかります。つまり、後払いなんです。
補助金・助成金を使って、開業時に使ったお金の一部を後から補てんすることはできるのですが、開業前に補助金・助成金をもらうことはできないのです。
これが、補助金・助成金を「元手」に、飲食店を開業できない理由です。
補助金や助成金は、あくまで応募してから1年経った頃に開業時にかかったお金の一部を、国や自治体が代わりに払ってくれるという制度です。
経営に必要なお金は自己資金と融資で賄わなければいけない、ということですね。
「融資」「補助金」「助成金」何が違うの?

さて、先ほどから補助金・助成金とひとまとめにして話をしてきましたが、実際にはこの補助金と助成金は異なる性質をもつ制度です。
開業時に一般的な「融資」と合わせて、違いを見ていきましょう。
融資 | 補助金 | 助成金 | |
---|---|---|---|
支払い元 | 金融機関 | 国・自治体 | 国・自治体 |
返済義務 | あり | なし | なし |
開業前の支払 | あり | なし | なし |
受給条件 | 審査次第 | 要件を満たし、かつエントリー企業内で優れた評価を得ること | 原則要件を満たせばよい |
応募期間 | 随時 | 特定の期間 (数週間程度) |
随時 |
代表的な制度 | 新創業融資制度 上限3,000万円 |
創業補助金 上限200万円 |
キャリアアップ助成金 正社員コース 1人当たり最大72万円 |
●融資
金融機関からお金を借りることになるので、利息の支払いと返済義務が生じる。
補助金や助成金が後払いなのに対し、融資の場合は審査さえ通れば開業前でも支払われるので、開業前に資金を得ることができる。
●補助金
国・自治体の予算から、主に地域経済の活性化など、社会のために貢献する事業者をサポートするために支払われるお金。
返済義務はないが、融資のような前払いは受けられない。
限られた予算をエントリー企業が奪いあう、いわばコンペ形式なので、要件を満たしたからといって必ずしも補助金をもらえるとは限らない。
財源が国・自治体の予算なので、予算が下りなければ、昨年まであった補助金制度が今年からなくなることもある。
融資や助成金が随時応募可能なのに対し、予算が下りてから数週間程度の募集期間を設け、応募のあった企業を審査するスタイルのため、応募期間が限られている。
●助成金
国・自治体の予算から、特に就労促進や労働環境改善など、社会のために貢献する事業者をサポートするために支払われるお金。
返済義務はないが、融資のような前払いは受けられない。
補助金と違って、原則要件を満たせば交付を受けられ、応募も随時受け付けている。
融資は、審査さえ通れば、前払いで貸してもらえるお金。
補助金は、要件を満たしかつ審査を通った企業のみがもらえる、後払いのお金。
助成金は、要件を満たした企業は原則もらえる、後払いのお金。
と言えるでしょう。
補助金・助成金に税金はかかるの?

苦労して申請して、1年経ってようやく振り込まれたその補助金・助成金、課税対象なんですがご存知でしたか?
何故かというと、補助金・助成金は経理上「雑収入」「雑所得」などの科目を使って「収入」として計上する必要があるからです。
とはいえ、補助金の多くは対象経費の2分の1や3分の2を上限として支給されるので、そもそもの仕組みとして補助よりも経費の方が多くなり、収入がマイナスになって税金はかからない。少額の経費に対してはこのようなケースが一般的です。
しかし、気を付けなければならないのが、30万円を超える高額の設備や看板等を購入してその一部を補助金で賄うといった場合。
例えば、販促費などの補助を得られる小規模持続化補助金で、60万円の外看板に対して補助を得られることになったとします。
1つあたり30万円以上の看板や機械を購入した場合は、購入した期に減価償却費として経費計上しなくてはならないので、例えば耐用年数が10年だった場合、初年度の経費計上は6万円(定額法)。
補助金は3分の2の40万円もらってしまっていますから、40万円-6万円で34万円の所得が発生してしまい、34万円に対して所得税が課税されます。
高額の経費を賄うために補助金を利用する際には、税務上もご注意を。

※資本金1億円以下、従業員1,000人以下で青色申告をする法人・個人をモデルケースに、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」が適用されることを前提としています。
飲食店でももらえる補助金・助成金 3選

さて、融資・補助金・助成金の意味合いが分かったところで、次は具体的にどのような補助金・助成金を飲食店の開業で利用できるか、具体的な制度をご紹介していきます。
今回ご紹介する補助金では、実際にコミュニティ古民家カフェや酒蔵レストラン、地元の貴重な建造物を利用したベーカリーカフェなどが採択された実績があります。
自店でも補助金を狙えるかもしれません!
■平成30年度 地域創造的起業補助金(通称:創業補助金)
※平成30年度の応募は2018年8月9日時点で終了しています。今後の募集の有無を確認し、応募をご検討ください。

平成30年度 地域創造的起業補助金HP(http://www.cs-kigyou.jp/)
◆概要
新たな需要や雇用の創出を促し、経済を活性化させることを目的とした助成金です。
新しく創業する方で、要件を満たし、審査に通れば最大200万円まで補助を受けられます。
◆募集対象者
大まかに言うと、このような事業者が対象です。※詳細は募集要項を確認してください。
日本国内で、新たに創業する個人あるいは中小企業の事業主で、事業実施完了日までに新たな従業員を1名雇い入れることを確約し、認定の市区町村内※で創業すること。
かつ、認定市区町村か認定連携創業支援事業者から認定を受けていること。
※平成30年度の対象地域はこちら(http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/2016/160325ninteijichi.pdf)
認定市区町村外での創業に対しては補助が出ないので、まずは創業する地域が対象かどうかを調べると良いと思います。
◆補助対象経費
以下の3つの条件すべてを満たすものが対象となります。
- 使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
- 交付決定日以降、補助事業期間内の契約・発注により発生した経費
- 証拠書類等によって金額・支払等が確認できる経費
人件費・店舗等借り入れ費・設備費・原材料費などが対象となります。
※家賃はOKだけど敷金礼金は対象外、等の細かい取決めがあります。
◆補助率
補助対象と認められる経費の2分の1以内で
外部資金調達がない場合 | 50万円以上 100万円以内 |
---|---|
外部資金調達がある場合 | 50万円以上 200万円以内 |
平成30年度は120件の事業が採択されました。
コミュニティ古民家カフェや、クラフトビールが飲める書店など、飲食関連の案件も採択されています。
(平成30年度採択結果はこちら:http://www.cs-kigyou.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/08/saitaku_ichiran20180808.pdf)
■小規模事業者持続化補助金
※平成29年度補正予算分の応募は2018年8月9日時点で終了しています。今後の募集の有無を確認し、応募をご検討ください。

日本商工会議所 平成29年度補正予算 小規模事業者持続化補助金HP(http://h29.jizokukahojokin.info/)
※商工会の管轄地域で事業を営んでいる方は、別途全国商工会連合会・各都道府県商工会連合会に問い合わせてください。
◆概要
経営計画に基づいて実施する販路開拓等の取り組みに対し、原則50万円を上限に補助金(補助率2/3)が出ます。
◆募集対象者
サービス業(宿泊業・娯楽業以外)の場合、常時使用する従業員の数5人以下の、小規模事業者
申請にあたって「事業支援計画書」を作成し提出すること※商工会議所の指導・助言が受けられます。
◆補助対象経費
販路開拓等の取り組み、業務効率化のための取組みのために生じる経費で、
1.機械装置等費、2.広報費、3.展示会等出展費、4.旅費、5.開発費、6資料購入費等が該当します。
具体的には、新メニューPRのためのチラシ作成費用や、ネット販売システムの費用、店舗改装費用などが対象になります。
◆補助率
補助対象経費の2/3以内で上限50万円
※最新の採択案件の中には、トイレの改装費用を得た串焼き屋さんや、大型看板の設置費用を得たそば屋さんなども。
(平成29年度補正予算分 採択者一覧はこちら http://h29.jizokukahojokin.info/index.php/saitakusha29//>
■キャリアアップ助成金

厚生労働省 キャリアアップ助成金HP(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html)
◆概要
「キャリアアップ助成金」は、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者 といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップなどを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。
(キャリアアップ助成金パンフレット(https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/000923177.pdf)より。
アルバイトだった人員を正社員にするのか、昇給させるのか、健康診断を制度化させるのか・・・アクションに応じてコースが異なります。全7コース。
- ・正社員化コース
- ・賃金規定等改定コース
- ・健康診断制度コース
- ・賃金規定等共通化コース
- ・諸手当制度共通化コース
- ・選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- ・短時間労働者労働時間延長コース
◆支給対象条件
大まかに言うと、このような事業者が対象です。※詳細はキャリアアップ助成金パンフレット(https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/000923177.pdf)を確認してください。
雇用保険適用事業所の事業主であり、事業所ごとに、キャリアアップ計画を作成するキャリアアップ管理者を置き、管轄労働局長の認定を受けていること。なお、労働保険料を納入していない年度がある事業主は助成金を受給できない。
◆補助金額
コースや条件により異なるが、「正社員コース」で最大1人あたり72万円の助成金を受けられるケースもある。
補助金とは違って、助成金は要件を満たし所定の形式で申請すれば、原則支給を受けられます。
■他にもいろいろ 補助金・助成金「IT導入補助金」 「軽減税率対策補助金」など・・・
ここまで飲食店でも受けられる補助金・助成金の代表例を見てきました。しかし、他にも飲食店でも使える補助金・助成金はあります。
・「IT導入補助金」

IT導入補助金HP(https://www.it-hojo.jp/)
平成29年度補正予算分第三次公募の申請期間は、2018年10月中旬頃まで(予定)。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等のみなさまが自社の課題やニーズに合ったITツール(ソフトウエア、サービス等)を導入する経費の一部を補助することで、みなさまの業務効率化・売上アップをサポートするものです。
IT導入補助金 事業概要より (https://www.it-hojo.jp/overview/)
対象費用の1/2以下で、上限50万円まで補助を受けることができます。
飲食店の場合、ウェブ予約システムや給与計算ソフト、POSレジの各種サービス連携などが対象になります。
この補助金で心強いのが、「IT導入支援事業者」つまりはITサービスやソフトのベンダーさんが、中小事業者である皆さんの代わりに「代理申請」をしてくれるところです。
ベンダーさんに必要な情報を渡せば、あとはベンダーさんが電子申請をしてくれる、とても楽ちんな補助金なのです。
・「軽減税率対策補助金」

軽減税率対策補助金HP( http://kzt-hojo.jp/)
軽減税率対策補助金は、2019年10月に消費税率10%へ引き上げに合わせて実施される消費税軽減税率制度(複数税率)への対応が必要となる中小企業・小規模事業者等の方々への補助金制度です。(軽減税率対策補助金 http://kzt-hojo.jp/より)
A型とB型の2種類の支援制度が準備されていますが、個人飲食店の場合は概ねA型の「複数税率対応レジの導入等支援」プランになると思います。
ただし、軽減税率自体が「外食」については適用されないため、個人飲食店でかつ「テイクアウト」をしている事業者の方が対象になります。
プランごとに補助率や上限率が異なりますので、詳細は軽減税率対策補助金HP 複数税率対応レジの導入等支援ページ(http://kzt-hojo.jp/applicant/cash_registration/)をご確認ください。
例えば、POSレジ1台に対して上限20万円の補助などがあります。
そのほかにも、分煙推進や、融資を取り付けづらい若手・女性向けの補助金・助成金など、特徴のある補助金・助成金があるようです。
補助金や助成金についてまとめた専用サイトなどもあるようですから、随時チェックすると良いかもしれません。
まとめ
補助金・助成金について今回は学んできました。
しかし、序盤でもふれたとおり、補助金・助成金を元手に飲食店を開業することはできません。
あくまで、申請からしばらくたってから、国・自治体がかかったお金の一部を後日負担してくれる制度、と理解して申請してください。
また、補助金・助成金の募集要項・要件をご覧になった方は分かるかと思いますが、補助金・助成金の申請作業は非常に複雑で煩雑です。
しかも、補助金の場合は要件を満たしていてももらえるとは限りません。
補助金・助成金はもらった方が経営も楽になりますが、もらうことが目的になってしまわないように、あくまで経営主導で計画・判断をしたいものです。